薬を勉強されたことのある人は「便秘の薬で安全に使用できるものは?」と聞かれると十中八九、「酸化マグネシウム」と答えるほど、今や頻繁にかつ安全に使われているお薬です。
そんな酸化マグネシウムですが、【胃酸を抑える薬を飲んでいると効果が落ちてしまうことがある】というのはご存じでしょうか。その仕組みを理解するには、酸化マグネシウムがどういう作用で便秘に効くかを理解する必要があります。
酸化マグネシウムの添付文書にも制酸剤との併用については書いていないので、知らない薬剤師も中にはいます。
酸化マグネシウムの体内動態
酸化マグネシウムを飲むと体内ではどういう風に変化していくのかを見ていく必要があります。
胃に到達した酸化マグネシウム(MgO)は胃の中で胃酸(HCl)と反応(中和)します。すると、塩化マグネシウム(MgCl2)となります。ここで胃酸と中和することで制酸剤、つまり胃薬としての働きもあります。
胃で生成した 塩化マグネシウム(MgCl2) は小腸に移動をして膵液中の重炭酸ナトリウム(NaHCO3)と反応し、重炭酸マグネシウム(Mg(HCO3)2)や炭酸カルシウム(CaCO3)になります。
その 重炭酸マグネシウム(Mg(HCO3)2)や炭酸カルシウム(CaCO3) が浸透圧を利用し、腸管に水分を引き寄せることで、便に水分を与え柔らかくし、便とともに出ていきます。
便に水分を与えることで腸には刺激を与えないことから、お腹も痛くなりにくいし、薬の耐性なんかも生じにくいことから安全に使えると言われています。
ほとんどは便として出ていくけど、一部のMgイオンは体内に吸収され、腎臓を通って尿として排出されます。詳しくはこちら↓
胃酸を抑えると?
さて次に胃酸を抑えるとどうなってしまうのかを見ていきます…といっても答えは単純明快で、胃の中の反応に答えがあります。
酸化マグネシウムは最初に胃酸と中和して塩化マグネシウムができますが、この胃酸の分泌量が胃酸を抑えるお薬によって少なくなっていると十分に反応ができなくなり、最終的にできる重炭酸マグネシウムの生成も少なくなります。
代表的な胃酸を抑えるお薬は下記に記します。
胃を全摘した人も胃酸が出ないから効きにくくなる可能性はあるね。
どれだけ効果が落ちる?
こんな報告(PMID: 24820768)があります。
対象:P | 大腸手術後の一部の患者(n=67)および全胃切除後(n=4) |
介入:E | 酸化マグネシウム+H2ブロッカー併用(n=14) または酸化マグネシウム+PPI併用(n=27) |
対象:C | 酸化マグネシウム単独 (n=30) |
結果:O | 酸化マグネシウムの投与量増加 |
期間:T | ? |
こちらの文献は有料なので詳細は読めませんでしたが、酸化マグネシウムと制酸剤との併用群は酸化マグネシウム単独群より酸化マグネシウムの量を増やさないと便秘をコントロールできなかったと記載されていました。
どうすれば?
酸化マグネシウムと制酸剤を併用していて便秘がコントロールできていれば問題はない…とは言い切れません。
便秘コントロール出来ているが酸化マグネシウムが高用量
ほとんどが便と一緒に出ていくので安全と言われている酸化マグネシウムも一部は体の中に吸収されて腎臓を通って尿として排出されます。腎臓が正常な方はそれで問題はありませんが、高齢者や腎障害をある方はうまくマグネシウムが尿から排出されず、高マグネシウム血症を引き起こすことがあります。なのでそういう方はコントロール出来ているからと言って安心せず、他の便秘薬に変更をすることも視野に入れなければなりません。
その制酸剤は本当に必要?
H2ブロッカーやPPIなどを服用されている方などに漫然に投与されているケースもあります。例えば 低アスピリン療法の胃潰瘍防止でアスピリンが中止されているのに制酸剤だけ残っていることや、胃潰瘍の治療では継続投与は8週間までですが、それ以降も続いているなどです。その場合は制酸剤の中止を提案します。
また余談ですがPPIの漫然投与は様々な副作用が報告されており、市中肺炎や骨折、認知症リスク、肝性脳症、腹膜炎のリスクが高まるとされる報告もいくつか挙げられます。
- 参考 PMID: 20222914、27474889
制酸剤を継続しなければいけない場合
逆流性食道炎の維持療法や低アスピリン療法の胃潰瘍防止、肝硬変患者に対する食道静脈瘤の出血防止などで継続的に必要な方もいます。そういう方には胃酸との反応には関係ない薬、例えばグーフィスやモビコールなどに変更することも考えます。
最後に
添付文書には酸化マグネシウムと制酸剤との併用のことは書いていませんが、薬学的に相互作用を見ることは薬剤師の能力の一つだと思います。もし酸化マグネシウムを服用していて便秘が解決しないという例がいましたら、併用薬を確認してみましょう。
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