どうも、ふみやさんです。
アスピリン・ジレンマ。聞いたことありますでしょうか。
アスピリンと言えば血液をサラサラにするイメージが一般的に強いと思いますが、低用量と高用量で作用が違ってきます。
アスピリンの作用機序
アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)と呼ばれる代謝酵素を阻害します。
体内ではアラキドン酸がCOXにより代謝されることでプロスタグランジンやトロンボキサンA2、プロスタサイクリンなどの生理活性物質が生成されます。図で見るとこんな感じ。
- プロスタグランジンは発熱作用や痛覚伝達作用
- トロンボキサンA2は血小板凝集促進作用
- プロスタサイクリンは血小板凝集抑制作用
とそれぞれ働きがあります。
低用量のアスピリンはトロンボキサンA2の生成を抑えることで、血小板凝集促進を抑える、つまり血栓などの予防に効能を持ちます。
アスピリン・ジレンマ
あれ?でもプロスタサイクリンもCOXで代謝されて生成されるよね?血小板凝集抑制作用とトロンボキサンA2とは逆の作用を持ってるし、打ち消しあうんじゃ?
実は低用量のアスピリンだと体内でこういうこと(↓図)が起こってます。
アスピリンはCOXを阻害することでトロンボキサンA2とプロスタサイクリンのどちらの生成も抑えます。トロンボキサンA2は主に血小板に存在していますが、血小板は核を持たないのでCOXを生成できません。一方でプロスタサイクリンは血管内皮細胞に存在しており、核を持っているため、新たにCOXを生成できます。
なので、低用量のアスピリンではトロンボキサンA2の生成のみに関与することで血小板の凝集を抑えていきます。
へぇー。なら高用量のアスピリンだと…
図解するで。
低用量のアスピリンでは血小板に存在しているトロンボキサンA2の生成のみを抑えていきましたが、高用量のアスピリンだと、血管内皮細胞によるCOX生成が追い付かず、結果的にプロスタサイクリンの生成も抑えていきます。つまりトロンボキサンA2の作用と打ち消しあい、プロスタグランジンの生成を抑えていく作用が残り、解熱鎮痛薬として使われるという仕組みです。
このように低用量アスピリンで抗血小板作用、高用量のアスピリンで解熱鎮痛薬として効能を示すようなことをアスピリンジレンマと言います。ただ、高用量の場合であっても、抗血小板作用が全くなくなるというわけではないので、注意が要ります。
ちなみに低用量は75~325mgで、それ以上が高用量になるようです。
だがしかし
だがしかし、こんな論文(RCT:ランダム化比較試験)があります。
高リスク患者における死亡、心筋梗塞、脳卒中の予防のための抗血小板療法のランダム化試験の共同メタアナリシス
この論文の内容を簡単にまとめますと「低用量のアスピリンと高用量のアスピリンとで血管イベント抑制効果に差はなかった」と報告されています。
え???
さらにはこんな報告も。
こちらは「低用量と高用量で有害な心血管イベントに有意な差はなかったが、高用量のほうが退院後の軽度な出血リスクが高かった」と報告されています。
とまぁ実際にアスピリン・ジレンマというのは体の中で起こっているのかもしれないけれど、あくまで理論的で、血栓を予防して脳出血や心筋梗塞を予防するという点においては、低用量と高用量で変わらないみたいですね。
まとめ
- アスピリン・ジレンマとは低用量で抗血小板作用、高用量で解熱鎮痛作用と用量によって効能が異なることを言う。
- 心血管イベントを抑制する点において、低用量と高用量では差はないのかもしれない。
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