さて、薬剤師の領域ですね。
使い分けを知っておけば、処方を見た時に褥瘡がどういう状態かをある程度把握することができます。
前回はこちら
治療のコンセプト
基本は創面保護の維持、つまり予防やケアを基本方針とするのですが、褥瘡ができてしまった場合、次のようなコンセプトで治療していきます。
深い褥瘡の治療前半(黒色期,黄色期)では TIME コンセプトによる wound bed preparation を,一方,浅い褥瘡と深い褥瘡の治療後半(赤色期,白色期)ではmoist wound healing を治療コンセプトとした。
褥瘡ガイドライン2017 p1937
なんか略語やら英語が出てきたけど…
T(tissue:nonviable or deficientの改善,すなわち壊死・不活性組織の管理)
I(infection or Inflammation の改善,すなわち感染・炎症の管理)
M(moisture imbalance の改善,すなわち滲出液の管理)
E(edge of wound:nonadvancing orundermined epidermal margin の改善,すなわち創辺縁の管理)
のそれぞれの頭文字をとってTIMEと言います。
日本語では「創面環境調整」と言い、黒色期や黄色期に行う治療コンセプトです。
黒色期や黄色期は「壊死組織」「感染」「不適切な滲出液」などがあり、これらの要因が創傷の治癒を妨げるので薬剤やドレッシング材で取り除いていきます。
創面を保潤した環境に保持する方法。
滲出液には多核白血球、マクロファージ、酵素、細胞増殖因子などを創面に保持することで自己融解を促進して壊死織除去に有効です。
とまぁまとめると…
深い褥瘡の前半(黒色期~黄色期)は壊死組織や不要な滲出液などの治癒を妨げるものを除去していきましょう。
浅い褥瘡や深い褥瘡の後半(赤色期~白色期)は創面を適度に保潤していきましょう。
ってことですね。
褥瘡の各段階の状態
創面の状態(進行具合)によって4つに分けられる。
黒色期
組織が壊死し、黒く変色している状態。創を覆っている黒色の壊死組織は細菌の増殖にうてつけの場所で治療を遅らせる原因になる。ハサミやメスで除去する外科的デブリードマンや薬剤を使って壊死組織を分解して、取り除いていく。
黄色期
黒色壊死組織が取り除かれ、黄土色の深部壊死組織や不良肉芽が露出するようになる状態。黒色期と同じく感染しやすく不良肉芽は上皮形成しにくいので取り除いていく。赤色期に移行するまで感染制御や滲出液のコントロールを行う。
赤色期
血管に富んだ組織、いわゆる肉芽組織が形成し、赤色に見える状態。出血しやすいので摩擦には十分気を付け、創内の湿潤環境を保つためハイドロコロイドなどのドレッシング材や上皮形成促進の薬剤を使用する。
白色期
上皮が形成され、周囲との段差がなくなり、創が塞ぐ段階にある状態。創部の収縮・上皮化促進させるためフィブラストスプレーなどを使用する。まだポリウレタンフィルム等のドレッシング材で保護および創内の湿潤環境を保つ。
薬剤の選択
まずはどういった薬剤があるか見ていきましょう。
効能別
ブロメライン軟膏(ブロメライン)
ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)
カデックス軟膏(カデキソマー)
ユーパスタコーワ軟膏(ポビドンヨード)
ヨードコート軟膏(ヨウ素)
アクトシン軟膏(ブクラデシン)
プロスタンディン軟膏(アスプロスタジル)
ソルコセリル軟膏(幼牛血液抽出物)
オルセノン軟膏(トレチノイン)
フィブラストスプレー(トラフェルミン)
アズノール軟膏(アズレン)
酸化亜鉛(酸化亜鉛)
とまぁよく出る処方はこんなとこかな…
これ薬剤のところに色ついてるけどなんか意味あるん?
お、せやな。次で見ていくで。
基剤の特徴
薬剤の基剤によって3種類に分けられる。
水分を吸収する。滲出液が過剰な場合に適する。
水分の蒸発を防ぎ、乾燥を防ぐ。乾燥し過ぎず、滲出液が多過ぎずな場合に適する。
患部に水分を与え、潤いを与える。乾燥している場合に適する。
こんな特徴があるんやな。…でも添付文書にそんな書いて無くない?
薬剤ごとに覚えないかんかな?
確かに詳しく書いてないな!
けども、これ覚えとけば大まかに判断できるってのがあるで!
添加物にマクロゴールが含まれていれば吸水型。
セタノールなどの乳化剤が入っていてクリームっぽかったら加水か保湿型。
ワセリンなど軟膏っぽいのが保湿型。
なるほど。なんとなく分かった…かな。
クリーム(乳剤性)っぽいのは水が含まれてる分、保存剤やらいろいろ入ってるのも特徴やな。
乳剤性のものはゲーベンクリームとオルセノン軟膏さえ覚えておけば後は判断できるかな。詳しく分けたらこんな感じ↓。
状況に応じた薬剤使用例
創傷・褥瘡・熱傷ガイドラインを参考にみてくで
パターン①:深い褥瘡で壊死組織が黒く変色
基本はカデックス軟膏、ブロメライン軟膏、ユーパスタコーワ軟膏
創面が乾燥しているのならゲーベンクリーム、創面の周りのびらんには白色ワセリンや酸化亜鉛、アズノール軟膏を合わせて使うなど
パターン②:創面のわまりにポケットがある場合
ポケット内に滲出液の多い創面の場合はユーパスタコーワ軟膏
滲出液が少なければフィブラストスプレー、オルセノン軟膏
ポケットとは皮膚欠損部よりも広い創腔のことで、褥瘡にはこれができる場合とできない場合があります。ポケットがあると治りにくい。現在はP-ライトのような機器を使って測ることが勧められており、不用意に鑷子をポケット内に入れるとポケット内部の肉芽組織を傷つけてしまう恐れがあります。
パターン③:赤色期~白色期の治療後半や浅い褥瘡の場合
滲出液が適正~少ない場合はフィブラストスプレー、オルセノン軟膏、プロスタンディン軟膏、白色ワセリン、ソルコセリル軟膏、アズノール軟膏
滲出液が過剰または浮腫が強い場合はアクトシン軟膏、ユーパスタコーワ軟膏
パターン④:急性期【褥瘡発生から2週間以内)の褥瘡の場合
創面保護の目的で白色ワセリン、酸化亜鉛、アズノール軟膏、感染予防の目的でゲーベンクリームを使用。短期間の使用であれば(長期間使用すると耐性菌が発現するリスクがあるため)抗生物質含有軟膏の使用も選択肢の一つとして挙げられる。
まとめ
使い分けのポイントとしては
①創面をどうしたいか(感染制御したい➡ヨウ素やスルファジアジン銀、肉芽形成促進したい➡ブクラデシンやトレチノイン)
②創面の滲出液はどうか(多い場合は吸水型を、少ない場合は保湿、加水型を)
①と②に合致した薬剤を選べば、大きく間違えることはないと考えます。
↓簡易的に作ったやつ(旧)
↓簡易的に作ったやつ(新)。ソルコセリル軟膏が販売中止したので…
PDFはこっち↓
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