どうもこんにちは。ふみやさんです。
シクロスポリンとスタチン系の併用についてのツイートをしようかなと考えていた時に、ふと気になったことがあったので、先日こんなツイートをしました。
いろんなコメントを頂きましてありがとうございます。
中にはマークしていなかった組み合わせなどあったので、せっかくなので併用について、どれだけ影響があるのか、まとめてみることにします。
シクロスポリンとスタチン系
シクロスポリンは免疫抑制剤でよく移植による拒絶反応予防やネフローゼ症候群などに使われるお薬ですね。~スタチンは血中の悪玉コレステロールを下げるお薬です。
例えば、ネフローゼ症候群の時は血中コレステロール値が上昇してくる傾向にあるので、併用される場面は多々あります。
ネフローゼ症候群とは別ですが、例えばアトピー性皮膚炎の患者でこんな処方。
Rp1.シクロスポリンcp(50)2c 朝食後 皮膚科
Rp2.ロスバスタチン錠(5)1T 朝食後 内科
あ!これはロスバスタチンがシクロスポリンと禁忌やな!
シクロスポリンの添付文書の併用禁忌の薬剤にロスバスタチンとピタバスタチンがあります。
じゃあロスバスタチンとピタバスタチンの代替としては、併用禁忌でない同じストロングスタチンのアトルバスタチンかな。
ただこれは本当にアトルバスタチンでいいのでしょうか。
フルバスタチン以外のスタチン系はOATP1B1と呼ばれるトランスポーターを介して肝臓に取り込まれます。一方でシクロスポリンはOATP1B1阻害作用を持つので併用することでスタチン系の血中濃度が上昇します。ではどれくらい上がるかと言いますと以下の表を引用させて頂きます。
この表にある報告にある通り、最低でもフルバスタチンでもAUCが3倍、それ以外のスタチン系はなかなかの上昇率を見せてます。スタチン系の血中濃度上昇による横紋筋融解症の発症の報告もフルバスタチン以外はあります。
以上からシクロスポリンとの併用は血中濃度が2~4倍上昇したとしても最大用量の許容範囲であるフルバスタチンが無難です。
まぁフルバスタチン(スタンダートスタチン)で目的の治療効果を出ない場合もあるので、その場合はエゼチミブの併用とかも考えるかなぁ。
といった感じで添付文書中では併用注意だけど、実際併用すると禁忌レベルで影響を与える薬剤を見ていきます。
タモキシフェンとパロキセチン
タモキシフェンは乳癌組織において抗エストロゲン作用を示すことで乳癌の進行・再発を抑えるお薬です。パロキセチンは脳内セロトニンの再取り込みを抑えることにより、抑うつ気分や不安を和らげるお薬です。
パターンとしては乳癌治療中に気分が落ち込み、精神科にかかり処方されるパターンがあるかもしれません。ではこの2剤はどう影響があるか見ていきます。
タモキシフェンの先発品、ノルバデックスⓇの添付文書の併用欄にはこう書かれています。
本剤の作用が減弱するおそれがある。併用により乳癌による死亡リスクが増加したとの報告がある。CYP2D6阻害作用により本剤の活性代謝物の血漿中濃度が低下したとの報告がある。
ノルバデックス錠10mg/ノルバデックス錠20mg (pmda.go.jp) より引用
タモキシフェンはCYP2D6の代謝を受けることでエンドキシフェンとなって活性を示し、薬としての効能を持ちます。一方でパロキセチンはCYP2D6を強く阻害することが知らています。
パロキセチンを併用するとタモキシフェンはうまく活性代謝物になれず、薬効が落ちることで乳癌が進行・再発する確率が上昇するというわけです。併用することでエンドキシフェンの血中濃度が50%未満に低下した報告もあります。
ではどれだけ死亡率が上昇するかを研究報告とともに見ていきます。
タモキシフェンとパロキセチンの併用期間 | 死亡率の上昇率 |
25% | 24% |
50% | 54% |
75% | 91% |
パロキセチンを併用している期間が長くなればなるほど死亡率が高く(癌の進行や再発が進む)なっているね。
ただ一方でオランダで行われた研究(Effect of Concomitant CYP2D6 Inhibitor Use and Tamoxifen Adherence on Breast Cancer Recurrence in Early-Stage Breast Cancer | Journal of Clinical Oncology (ascopubs.org))で影響を与えなかったという報告もあります。
ただまぁどうだろう。ヨーロッパ方面の方はCYP2D6がPMの方が多い傾向にあるので、そもそもがタモキシフェンが代謝活性されにくいので、影響に差がなかった可能性はあるね。
遺伝多型と人種差 参考
以上からタモキシフェンとCYP2D6阻害剤との併用は避けたほうが無難ということになります。
ちなみに他にもCYP2D6を阻害する薬剤としてはキニジン、フルオキセチン、テルビナフィン、ハロペリドール、シメチジン、アミオダロン、セルトラリンなどがあります。
話は逸れますが、タモキシフェンで乳癌治療する際はCYP2D6が個々にどれだけ存在するか調べるのも重要になってくるのかもしれませんね。
レパグリニドとクロピドグレル
レパグリニドは膵臓に働きかけてインスリンを分泌させることで血糖値を下げるお薬です。クロピドグレルは血小板の凝集を抑制し、血栓など予防するお薬です。
併用するパターンとしては心筋梗塞などを既往歴に持ち、糖尿病も持っている場合でしょうか。生活習慣病の行きつく先でもあります。
レパグリニドは主として薬物代謝酵素CYP2C8で代謝されることが知られています。そしてクロピドグレルは主にCYP2C19により活性代謝物に代謝されるが、別経路で生成される非活性型のグルクロン酸抱合体がCYP2C8を阻害することが知られています。
この2つを併用すると、クロピドグレルには影響は問題ないですがレパグリニドの代謝が遅れ、血中濃度が上がり、低血糖などの副作用のリスクが上昇します。
実際、併用例で遷延性重症低血糖の報告もあるようね。
併用するとレパグリニド75mgの場合AUCが3.9倍、半減期は22%延長することがここでは書かれているから注意は必要ですね。
参考:レパグリニド添付文書、クロピドグレル添付文書
デキストロメトルファンとシナカルセト
デキストロメトルファンは咳中枢に働きかける非麻薬性の咳止めのお薬です。シナカルセトは二次性副甲状腺機能亢進症などで起こる高カルシウム血症を改善するお薬です。
もうこれはレグパラⓇの添付文書に書かれていますね。
本剤のCYP2D6阻害作用により左記のようなCYP2D6基質薬物の代謝を阻害し、血中濃度を上昇させる可能性がある。本剤とデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物を併用したとき、デキストロメトルファンのAUCが約11倍増加した。
レグパラ錠12.5mg/レグパラ錠25mg/レグパラ錠75mg (pmda.go.jp) より引用
10倍以上に増加するのは相当ですね。気を付けないと…。
リファンピシンとスボレキサント
リファンピシンは結核のお薬です。スボレキサント(ベルソムラⓇ)は覚醒の維持に必要なオレキシンの働きをブロックして睡眠を促すお薬です。
添付してくださった上のツイートの画像を見ると、併用することでスボレキサントの血中濃度が64%、AUCが88%も減少したことが報告されていますね。
リファンピシンは様々なCYPの発現を誘導することで有名なお薬です。この2つの薬を併用する場合、スボレキサントの代謝が速くなって血中濃度が下がります。
リファンピシンが誘導するCYPは
- CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19
- CYP3A4
スボレキサントはCYP3A4の基質なので、リファンピシンによってCYP3A4の発現を促したことによって薬の効果がなくなるのが速いんですね。
ベルソムラⓇは副作用や依存性が少ないので使いやすいですが、リファンピシンとの併用では全く効果がなくなってしまいますね(もしかしたらプラセボで寝れるかもしれませんが…)。
この場合はリファンピシンによる治療はやめられないので、ベルソムラⓇを少量のトラゾドンなどに変更提案するのもいいかもしれません。
リファンピシンはCYPを誘導して薬の効果がなくなる方向に働くのが多いけど、もし結核の治療が終わったタイミングで併用している薬剤があるなら、その薬剤の血中濃度が急激に上昇することがあるので治療終了時は注意深くモニタリングが必要やね。
併用注意、侮れんなぁ
他にもたくさんコメントを頂きまして、まとめようと思いましたけど力尽きました(おい)。併用禁忌の薬は学校でも現場に出てからも注意深くチェックすると思います。ただ併用注意の薬はどうでしょう?どこか心の中で「まぁ注意だし…」とスルーすることもなきにしもあらずではなかろうか。
ただ、中には併用注意の項目だったとしても、禁忌レベルで薬害が起こることもあり得ます。なぜ併用注意なのか、果たしてそれはどのレベルでの併用注意なのか薬剤師として見極める必要はありますね。
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